非平面状のπ電子系をもつフラーレンやカーボンナノチューブなどの炭素同素体は物理・化学両面から詳細な研究が行われ、いくつもの興味ある物性が見い出されてきた。しかし、π電子ロープの突き出た空孔内の性質、特に他の分子や原子との相互作用や、外側のπ系との電子状態の違いは未だに明確ではない。申請者は先にナノメータースケールの空孔を持つベルト状の共役系化合物として[n]CPPA(CyclicPara-Phenylacetylene)1a-d(n=6〜9)を比較的安定な化合物として合成した。この分子はフラーレン類などをはじめ、他の分子との超分子相互作用を検討する良いモデル分子と期待された。本年度は (1)1aとヘキメサメチルベンゼンの包接結晶のX線結晶構造解析を行い、1aが実際に直径約13.2Åのほぼ円筒状の空孔をもつことを確認した。 (2)1aはC60やC70と1:1錯体を作り、その錯形成定数(Ka)はベンゼン中で1.6×10^4および1.8×10^4と算出されホストとの対称性の違いによる錯体の安定性の差が小さいことがわかった。 (3)低極性非ベンゼン系溶媒中での錯形成定数はベンゼン中の値よりかなり大きく(>10^8)、特に塩化メチレンやTHF中ではNMRで錯化したホストと錯化しないホストが別々に観測された。また、C70錯体ではC70分子がホストを通り抜けられないことがわかり、C60とのサイズの違いによる錯形成挙動の違いが見られた。 (4)1aと[9]CPPA1dが結晶中でも溶液中でも1:1の包接錯体を形成することを見いだした。 これらの特異な性質は、曲面状の共役系間のπ-π相互作用の本質に基づくものと思われ、新たな超分子相互作用の発現として、今後さらに研究が発展してゆくことが期待される。
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