研究概要 |
スピンクロスオーバー挙動のような有機分子では実現しにくい特性を液晶に賦与し、LCD材料を超える磁気・光機能性を引き出すことを目標として、あえて6配位八面体型の配位構造を含む金属錯体を取り上げて液晶材料を導く試みを行った。平成12年度は、11年度に開始した「スピンクロスオーバー液晶系の構築」に的を絞り、研究の集中的展開を図った。室温スピンクロスオーバー錯体として知られる1,2,4-トリアゾール誘導体(NN)の鉄錯体[Fe(NN)_3]X_2・2H_2O(X=アルキルスルホン酸イオン)を母体化合物として選び、配位子を以下のように修飾した。 1.4-(アルコキシサリチリデンアミノ)-1,2,4-トリアゾール 液晶性誘起と光誘起プロトン移動特性の賦与を目的としてサリチリデンアミノ残基を組み込んだ。しかし、昨年度来合成してきた一連の配位子はアルコール等の極性溶媒に難溶で、他の配位性溶媒を用いるとFe(II)イオンの自動酸化が避けられない等の問題が生じ、目的とする錯体の純粋な試料を得ることはできなかった。 2.4-(アルコキシベンジリデンアミノ)-1,2,4-トリアゾール(=NN') 配位子をベンジリデン誘導体に変更することにより溶解性が向上し、5種類の市販鉄塩を用いて錯体合成を行うことができた。このうち、塩化物については[Fe(NN')_3]Cl_2・xH_2Oの目的組成(Fe:NN'=1:3)をもつ固体が得られたが、すべての錯体試料が相変わらず酸化の影響を免れず、空気中での保存にも耐えないことがわかった。しかし、嫌気的条件下注意深く単離された塩化物固体は、氷温(紫色)と室温(淡黄色)の間で顕著な可逆サーモクロミズムを呈し、これは低スピン種と高スピン種の間の転移によるものと解釈された。この固体が母体室温スピンクロスオーバー系と同様、Fe(II)の鎖状配位高分子構造を持つものかどうか現在検討中である。
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