研究概要 |
反磁性物質は磁場から反発する性質がある.通常の電磁石ではこの力は非常に弱く,それを利用することはできないが,30テスラ級の超強力電磁石を使うと重力に匹敵するだけの反発力が発生し,物体を宙に浮揚させることができる.これを磁気無重力場と呼び,その利用はまさにこれから始まろうとしている.本研究の目的は,磁気無重力状態において導電性ポリマーのポリビロールの磁気電解重合実験を成功させ,強磁場と無重力がポリビロールの電解重合膜の特性にどのような影響をおよぼすかを調べることである. 磁気無重力状態を実現するには超強磁場と大きな磁場勾配を持つ電磁石が必要で,東北大学金属材料研究所・附属強磁場研究センターに設置されているハイブリッド磁石を使用することにより実験が可能となった.ピロールの水溶液を磁場勾配の大きな所に置き磁場を発生させると,反磁性の水溶液には上向きの磁化力が働く.この反発力と重力の釣り合いが取れたとき,無重力状態が実現する.すでに物体が浮揚することは確認しているので,水の磁化率を考慮して電解セルを設置する最適の位置と印加磁場を決定し,磁気電解重合を行った.また,強磁場の効果と無重力の効果を区別するために,均一強磁場中でも同様の電解重合を行った. 得られたポリビロール重合膜の表面形態を原子間力顕微鏡で観察し,同時に電気化学特性も調べた.結果は磁気無重力下の重合膜および強磁場下の膜ともに,ゼロ磁場のものに比べて極めて緻密な膜が形成されていることが分かった.また膜の還元電位もゼロ磁場のものに比べて200mV以上負にシフトすることが分かったが,磁気無重力下の膜と強磁場下の膜との間に差違は認められなかった.このことから,導電性ポリマーの電解重合には無重力よりも強磁場による配向効果の方が大きな影響をおよぼすことが明らかとなった.
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