キイロショウジョウバエ抗菌タンパクセクロビン遺伝子群内にあるアンドロビン遺伝子は、成虫雄射精管特異的な発現を示す抗菌タンパクである。アンドロピンは、構造遺伝子の塩基配列から予測されるアミノ酸配列が、ショウジョウバエ種間で大きく異なり、その進化には正の自然選択の作用が示唆されている。これらの配列の変化が、遺伝子発現及びタンパクの活性に何らかの影響を及ぼしているかを知るために、以下の2点に関して検討を行った。 1.アンドロビン遺伝子5'上流調節領域配列の種間比較 アンドロピンの遺伝子発現が種間で差が見られるかどうかを調べる第一歩として、キイロショウジョウバエ近縁4種について5'上流調節領域の塩基配列を決定・比較を行った。調べた4種間では全て、ショウジョウバエグルコース脱水素酵素遺伝子(Gld)の雄射精間特異的発現を担うシスエレメントの候補が2箇所で見つかり、配列も高度に保存されていた。これら4種についてRT-PCRを行い発現の比較も行った。アンドロビンの発現は全ての種の成虫雄腹部においてみられ、発現の程度もキイロショウジョウバエと差が見られなかった。 2.アンドロビンタンパクの抗菌活性比較 アンドロピンの抗菌活性が種間で差があるかどうかを調べるために、キイロショウジョウバエアンドロピンと、アミノ酸一次配列の相同性が最も低かったD.teissieriにアンドロピンの合成ペプチドを作成し、グラム陽性菌・陰性菌計5種に対する抗菌活性を比較した。ペプチド間の菌特異的な活性は見つけられなかったが、D.teissieriアンドロピンペプチドではB.subtillisに対する抗菌活性の有意な上昇が見られた。即ち、アンドロビンは雄射精管に発現する抗菌タンパクである性質を保持しつつ、種によって作用する菌や特異性に差を出すように適応進化を遂げたという可能性が示唆された。成果は、Journal of Molecilar Evolution誌へ投稿準備中である。今後さらに調査する菌種を増やしてこれらの傾向を明確にし、突然変異体の作成からアンドロピンの生体内機能解明へつなげたい。
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