研究概要 |
研究材料を採集するため、房総半島などで現地調査を行なった。Cyperus(カヤツリグサ属)、Mariscus(イヌクグ属)などカヤツリグサ亜科の花序末端(小穂)の縦断ミクロトーム切片を多数作製、観察した。小穂軸の頂端分裂組織(成長点)は常時活動していて、側芽として若い花原基を作り続けている。下方の花が結実すると、成長点およびその付近の若い花原基はそのままの形で枯死する。これはTrollの言う"Polytelie"の性質を典型的に現わしている。 イヌノハナヒゲ亜科も、苦心の結果ある程度、採集できた。Cladium(ヒトモトススキ属)は房総では初夏に、小穂軸の先端が第1の花原基に変化する。そのすぐ下の葉腋に側枝ができ、その先端が第2の花原基に変化する。第1の花では雄しべと雌しべの原基がともに形成されるが、子房の中の胚珠の発達が途中で止まるため、図鑑で「雄花」と記載される状態となる。第2の花では雄しべ、雌しべともに完全に発達する。第3の花原基も形成されるが、これは途中で退化し、開花には至らない。以上のような概要であるが、なお材料が不足していて、明確な写真や図を示すためには、さらにこの植物群の採集が必要である。 Trollの没後20年かかって、F.Weberling(Ulm大学教授、Trollの高弟)により花序論の続編(Die Infloreszenzen,Bd.2,Teil2,Jena,1999)が出版され、筆者に贈られてきた。その花序形態学の体系はようやく一応、完結されたことになる。筆者はこの体系をコメントする総説を書くことを依頼され、只今その執筆のためTroll/Weberlingの全著作を検討中である。"Monotelie"と"Polytelie"という概念を区別したことはTrollの大発見として評価できる。しかし、"Polytelie"の中に末端が仮軸分枝するもの(Thyrsus,いわゆる密錐花序)を含めているため、その説明が大変複雑で難解となっている。筆者は,Thyrsusの類を別にして第3のカテゴリーとすればもっと明快な体系を作れる、と提案するつもりである. 現在、イネ科およびカヤツリグサ科のC3,C4植物における光合成組織の比較解剖を並行して研究しており、系統分類に関する考察はこれと総合して発表する予定である。
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