研究概要 |
鞭毛運動の原動力は,ダイニン分子によりダブレット微小管の間に起こされる滑り運動である.鞭毛内部においてダイニン分子の活性はさまざまな制御を受けているが,その制御機構はまだ不明である.生理的条件下でダイニン分子活性の制御機構を解析する系として2つの方法がある.その1つは,鞭毛を破壊せずに膜だけを取り除き,その細胞体に外部から強制振動を与え,このときの鞭毛の波形解析からダイニンの滑り活性を推測するという手法である.これを用いた研究の結果,ダイニン分子の滑りの制御には,鞭毛の屈曲形成の際の曲がりという機械的情報が重要な意味を持つらしいことが明らかになった.第2の方法は,最近開発に成功した,新しい滑り運動解析系である.エラスターゼ処理鞭毛から微小管を滑り出させてダイニン分子の列を露出させこのダイニンの滑り活性を制御機構をも残した状態で測定することに成功した.今回この系を用いた実験からもダイニン分子の活性の制御に微小管の状態が大きく影響する可能性を示唆するデータを得た.すなわち,滑り速度が中心小管の存在により遅くなることが明らかとなった.また,外腕抽出による滑り速度の変化に着目してその原因の検討を行った.運動中の鞭毛から外腕を抽出すると鞭毛打頻度が約半分に減少することから滑り速度が減少すると推測されている.鞭毛軸糸をトリプシン処理して滑りを誘導した場合にも,外腕抽出により速度は半分に減少する.ところが,今回エラスターゼ処理軸糸で滑りを誘導したところ,外腕抽出により速度は変化しなかった.エラスターゼ処理はトリプシンと異なり滑りの制御機構を破壊しにくいので,この結果は,慎重に検討する必要がある.トリプシンはダイニンの活性を増大させることが知られている.従って,運動中の軸糸内でもダイニンの活性を増大させる制御が存在するのではないかと考えられる.引き続きこの制御を明らかにすることを目指して実験を行う予定である.
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