体表の紋様は昆虫に限らず多くの動物に見られ、形態とともにその生物を特徴づける大きな指標ともいえる。また、昆虫などでは体表の紋様は擬態として生体防御に役立っている。そこで、昆虫の体表の紋様形成を制御する遺伝子の実体を調べる目的で、カイコのp遺伝子座のクローニングを試みた。カイコのp(姫蚕)とpS(黒縞)の間で、多型を検出するために、4令幼虫の眠のステージのmRNAをそれぞれの形質の個体から調製し、ディファレンシャルディスプレー法により、十数個のクローンを単離した。現時点で15個のクローンが得られている。これらの遺伝子がp遺伝子座の実体であるかどうかを確認するアッセイ法を確立するために、カイコの個体に遺伝子銃でGFP遺伝子を導入した。その結果、皮膚細胞の一部にGFPによる蛍光発色が確認された。黒縞の紋様は真皮細胞のメラニン合成によるものだが、姫蚕と黒縞の間でメラニン合成に関わる酵素活性に違いがあるかどうかを解析した。体液型フェノールオキシダーゼとドーパデカルボキシラーゼの二つの遺伝子を単離し、RT-PCR法により4眠期の皮膚での発現を姫蚕と黒縞で比較した。その結果、2つの遺伝子の発現には大きな差はなく、p遺伝子の制御はこれら以外の遺伝子を標的にしている可能性が高い。一方、p遺伝子座を直接クローニングする目的で、RAPD法により、p遺伝子にリンクした8個のクローンを同定した。現在これらのRAPDマーカーとDD法で得たクローンの配列、発現を解析中である。
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