本研究では、半導体中に添加したFeやErなとの元素の吸収スペクトルの挙動探索やその狭帯域化の可能性を探求し、半導体チップにモノリシックに集積可能な新規な周波数基準光波回路を形成する基礎技術の探査と、スペクトルスライス技術を用いた多波長光源の波長安定化への応用を目的とし研究を進め、以下の成果を得た。 1) 既存のGaInAsP/InP半導体材料にErなどの稀土類元素やFeなどの近赤外域に吸収線を有する元素の添加し、その添加元素固有の吸収スペクトルを用いて、光の絶対周波数を安定化する新しいモノリシック集積型周波数基準デバイスを提案し、それを用いた多波長光源の周波数安定化の構成法を提示した。 2) Feを添加したInPの近赤外域における吸収スペクトルを測定するとともに、周囲温度を変化させたときの吸収スペクトル変化などの温度特性を検討し、光通信の使用波長帯である1.5ミクロン帯における絶対波長基準としての可能性を示した。 3) 周波数基準デバイスにモノリシックに集積可能な新しい高速光検出器として、半導体量子井戸の歪を制御したMSM光検出器を提案し、その基本動作を確認した。 4) 周波数の絶対確度を高精度に安定化されたスペクトルスライス光源の実現を目指し、それに用いられる1Wに及ぶ超高出力インコヒーレント光の生成とそのスライス光の雑音特性、及びその雑音低減化の新しい手法を提示した。 以上、本研究により、化合物半導体中に不純物を添加し、その吸収スペクトルを用いる周波数基準デバイスの可能性を示すとともに、これを用いて周波数の安定化された多数の光を一括して生成する技術への道筋が与えられた。
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