DNA1分子を真空中に取り出し伸ばした状態で針状に固定し、高電圧を印加することにより電界の集中するDNA分子の先端から化学結合を順次切断され、分子ビームが発生することが期待される。その分子ビームを直接、質量分析装置等で解析することが可能になれば、従来の生化学的手法を用いることなく簡便でかつ直接的な塩基配列決定が実現できると思われる。 この手法を実現するためにはDNA1分子を伸長固定する技術の開発が求められている。そこで、微細加工した金属針の先端にポリエチレングリコールと低分子カチオンでグロビュール構造を誘導したDNA分子を誘電泳動力により吸着させた後に脱グロビュール化させるためのバッファー交換を行ない、スライドガラス上にDNAを末端から順に伸長固定する方法を開発した。この技術を用いることで、ガラスキャピラリー先端にDNA1分子を伸長し、それを凍結昇華することで分子ビームを作るための基質を製作することができると考えられる。 しかし、現状ではヌクレオチド1分子レベルでの検出は極めて困難である。そこで、分子ビームの検出の予備実験として繊維状のDNAを高電圧側の電極に固定し、TBEバッファで満たしたマイクロチューブ内部に接地電極を置き、DNAに立ち上がり時間の速い高電圧パルスを印加することによりチューブ内に切断されたDNA分子を回収することを試みた。しかし、これらの実験を空気中で行った結果、DNA分子が酸化してしまったため、酸化を防ぐためにアルゴンに置換して実験を行った。アルゴン雰囲気中で高電圧を印加して得られた試料の吸光度を測定した結果、260nmの吸光度としては0.18程度が得られた。その際の280nmの吸光度との比を調べた結果、試料中に切断されたDNAが回収されていると考えられる。これらの結果からDNA1分子を基質とした分子ビームの作製が可能であると期待される。
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