本研究は超離散化の手法をさまざまな工学システムに応用すること、および逆超離散化とも言うべき手法を用いて、さまざまな離散工学システムに対応する連続系を構成し、新しい視点でシステムの理解を図ることを目的としている。この目的に対して、本年度の研究経過は以下の通りである。 前者について、昨年度に引き続き戸田分子方程式に対応するセルオートマトン(CA)系の解の代数的性質、解の挙動と数列の加速法・ソーティングとの関わりを考察した。また、具体的に工学との関連を明らかにすることはできなかったが、応用可能と思われる多次元のCA系を構成し、その解の挙動を議論した。多次元への拡張は素直なものであり、本研究で得られた知見をもとに、数列加速やソーティング問題だけでなく、ペトリネットやグラフ理論でどのような拡張が可能かを検討することが一つの研究課題である。 後者について、逆超離散の考え方を戸田分子方程式及びその拡張版に適用し、CA系が無限個の保存量・対称性をもつことを明らかにした。この結果は、可積分なCAは同じく可積分な微分方程式・差分方程式が有する性質を共有していることを示したものであり、超離散系の構造理解に役立つものと考えられる。また一般の(非可積分な)系に対する試みとして、さまざまな型のCAについて、対応する差分方程式を構成し、その解の構造を考察した。そうして得られた差分方程式がCAの解の振る舞いを忠実に反映しているかどうかについてはまだ完全には把握できていないが、ある種のCAに対して、それをきわめてよく近似する差分方程式が存在することが明らかになった。今後、さらにCAに対応する差分方程式の構造を考察し、解の相互関係についての普遍的な性質を抽出することが重要な研究課題である。
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