研究概要 |
生体中に普遍的に存在する脂質分子の集合体に対し,生体内環境下での分子動力学シミュレーション法を適用して,・2重膜形成メカニズムと膜体としての動的安定性,・結晶相から液晶層への相変態を中心とする力学特性の評価を実施した.昨年度以前に行ってきた解析では,膜構造を安定に保つために外部的に力学的拘束を加えてきた.それを取り外して解析系を大きくすると共に,実際の生体環境の条件を解析過程により精密に組み込むと,熱揺動による影響を強く受けることに加えて,次のような問題点を解明する必要があることが明らかになった. 1.生体内環境下では,脂質分子親水基と水分子の相互作用がきわめて強く,ファンデル・ワールスカのみによる疎水基間の相互作用では,安定な2重膜を自然形成することはできない.何らかの骨格構造もしくは機能発現のために埋め込まれているタンパク質等による構造的補強が必要である. 2.脂質分子の炭化水素鎖部分の屈曲運動と(親水基より見た)回転運動の周期はきわめて長く,微弱な非結合相互作用(ファンデル・ワールスカ)の作用下では安定な結晶構造は取りえない.従って,動的に安定な構造上で,隔離/選択的物質・情報透過/面内・面厚方向拡散といった膜機能が発現されていると考えなければならず,その素過程の解明や制御機構の解明が必要である.
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