研究概要 |
本研究の目的は、摩擦面間でトライボ化学反応を積極的に行うことにより、自己修復性の潤滑膜が形成できることを示すことにある。本研究では、摩擦面間におけるトライボ化学反応により潤滑性の表面膜を供給するものであり、新しい概念による自己修復性潤滑膜の可能性を示すものである。現在機械部品に多く使用されているアルミナと、代替フロン等に使用されているフッ化炭素系気体に着目し、その摩擦面での反応をX線光電子分光法により検討した。 高真空中チャンバー内で使用できる摩擦試験機を作成し、摩擦実験をおこなった。この装置は、X線光電子分光装置(XPS)に接続されている。摩擦試験実験は、ボールオンディスク型の摩擦試験機を真空チャンバー内に設置し行った。摩擦後の表面を大気に暴露すること無しに、表面分析を行えるように設計した。アルミナのトライボ化学反応の荷重、圧力、回転速度依存性を検討した。 アルミナディスクをアルミナボールで、CF_3CH_2F(フロン134A)雰囲気下で、摩擦し、その後すぐにXPSにより表面分析を行った。TOF-SIMS分析により、スライダー表面にAlF_3,AlF_2Oの生成が確認された。XPS分析により低荷重下では、フッ化物生成が見られず、摩擦係数が高くなったが、荷重2Nを越える付近より、摩耗痕内のフッ化物の生成量が増加し、摩擦係数が低減した。また圧力依存性においては、10^3Paより低圧部ではフッ化物の生成が見られず、摩擦係数も摩耗量も高い値を示した。また摩擦速度依存性を調べた結果、低速摩擦下でも十分なフッ化物膜が形成され、摩擦係数が低下し摩耗量も減少していることがわかった。しかし0.2m/secを越えると摩擦反応に大きな変化が現れ、表面のフッ化物量が減少し、摩擦係数も高くなることがわかった。0.2m/sec前後の条件で摩擦した表面を分析すると、低速側ではより潤滑性の良いAlF_3と思われるA12pのピークが見られるのに対し、高速側ではAlF_2O等の他のフッ化物の生成を示唆するピークが見られた。この表面生成物の違いが、低速と高速でのトライボロジー特性を大きく変えたものと考えられる。
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