研究概要 |
平成10年度は,(1)誘電損失を利用した凝固核生成の抑制は水の電場エネルギー吸収を抑えることなしには困難であること,(2)氷の誘電損失スペクトルの測定より特定周波数で負の温度特性が存在し,凝固相の高速・均一昇温に効果がある可能性があることがわかった.平成11年度は,交流電場と氷の電気双極子の相関関係の理解を深めるために,(1)分子動力学法(MD)により氷結晶に電磁波を印加した際の誘電損率の計算を行い,(2)誘電損失スペクトルにおける吸収機構である回転緩和分散と共鳴型分散の観点から氷の誘電損失スペクトルの測定値を解析した.その結果,共鳴型分散の電場エネルギー吸収のピーク周波数は,ほとんど変化せず負の温度係数を持つが,回転緩和分散の場合はピーク周波数がシフトすることが分かった.このことから,昨年度見いだした3MHzの吸収ピークは共鳴型分散である可能性が高いことが分かった.また,MD計算より,H_2O分子の3体ポテンシャルを用いると分子内自由度に起因する共鳴型分散と回転緩和分散が再現されうることが分かった.さらに,一定温度に保った氷の誘電損失スペクトルのパターン(回転緩和分散型の吸収ピーク周波数のシフト)と氷の結晶粒の大きさの間に相関関係が存在することが見いだせたが,このことは電気物性が構造敏感であることと対応しており,マクロには結晶粒の幾何構造を示すパラメータとの関連性,ミクロには粒界の存在による氷の双極子モーメントの性質の変化の点から引き続き研究する価値があると考えられる.
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