研究概要 |
高温オーブン・レーザー蒸発フラーレン生成装置やアーク放電フラーレン生成装置において,炭素ナノチューブが成長することが分かっているが,通常生成されるナノチューブは,チューブが何重にも入れ子状になった多層チューブであり,単層のナノチューブは金属添加物がないと生成されないと考えられる.最近の実験的研究によってニッケルとコバルトの組み合わせやニッケルとイットリウムを組み合わせた金属添加物が有効であることが分かっており,本研究では金属原子あるいは金属クラスターと干渉しながら単層炭素ナノチューブが生成する過程を分子シミュレーションによって予測することを試みた.最初に,第一次近似として,金属原子(ニッケル)と炭素原子との相互干渉ポテンシャルを密度汎関数法(B3LYP)の量子計算によって求め,これを用いた古典分子動力学法によるシミュレーションを試みた.また,ランタンやイットリウムなどの金属原子の場合はフラーレンに内包されることが分かっており,これらの場合とニッケルの場合とを比較検討した.ランタンやイットリウムなどの金属では金属原子から炭素クラスターへの電荷の移動がかなりあるが,ニッケルの場合は電荷移動が小さいため,クーロン力によるポテンシャル項は考慮せずに,炭素原子同士のポテンシャルと似た形でのポテンシャル関数を構築した.これを用いたシミュレーションの結果,ニッケル原子はフラーレン構造に近いクラスターの大きな環状の穴部分に付着して,あたかも閉じたフラーレン構造の形成を阻止するかのように働くことが分かった.今後,さらに大きく炭素クラスターが成長した場合に単層ナノチューブへと成長するか否かの検討が必要である.また,多くの実験では2通りの金属を用いているが,これらがそれぞれどのような役割を持つのかをさらに検討する必要がある.
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