無中枢である植物のコミュニケーションにおける情報の生成、共有プロセスに関する知見を得るため、根と外界の界面に自己生成される電場や、器官先端部における生長リズム運動などに着目して、そららの変化挙動を様々な環境の元で計測する。本年度はまず、昨年度開発した振動電極計測システムの計測方向を3次元に拡張するとともに、これを用いて、植物体に音刺激を与えた場合や重力刺激を与えた場合などの、各種環境応答に対するカイワレダイコン幼根の電場パターンの変化について調べた。また、電場とコミュニケーションにおける情報の生成プロセスとの関係について検討するため、植物体を複数並べた場合における個々の根周辺の電場パターンについて同時計測を行った。結果として、無刺激時には生長の初期段階では根冠部から分裂帯に電流が吸い込まれるが、生長が進行するにつれて電流の吐き出し箇所が現れ、根軸を中心に対称なループを描き出した。また、生長速度に依存して、例えば電流の流れが正反対になるなど、電場パターンの生成に違いが見られた。次に、カイワレダイコン上部より音刺激を与えたところ、音刺激直後に電流の反転現象が見られた。一方、重力刺激に関しては根を垂直下方から45度傾けた直後に根の屈曲に先立って根を中心に非対称なパターンが現れ、その後屈曲した。これらの結果は、電場が根全体の生長を制御する情報として機能していることを示唆している。さらに、幼根2個を近接して並べた場合、時間の経過にしたがって電流の吸い込み箇所が移動し、その後互いを避けるように生長した。このことから、電場は自己の生長を制御しつつ、外界への情報伝達としての役割を果たす可能性があることを見出した。
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