平成10年度は、電力産業における競争環境が、電力システムの制御・運用にどのような影響を及ぼすのかを調査・分析し、競争環境下で望まれる電力フローの制御方法について以下の研究を行った。 (1) 電力システムの実務者との討議と、インターネット等から収集した欧米の電力産業に関する資料・文献の調査から、競争の進展に伴い送電ネットワークの利用が自由化され、その結果、電力フローの偏りが不確実性をともなって発生し易くなることが明らかになった。そこで本研究では、不確実に発生する電力フローの偏りを効果的に解消できるようにするため、可制御性の観点から潮流制御装置の配置を決定する手法を開発した。合わせて、電力取引き毎に指定される流通経路の良否を、線路過負荷の発生度合いと電力システムの安定度の観点から、簡便に評価する方法も考案した。 (2) 生物の社会集団的行動と競争環境における電力システム制御の類似性については調査・検討中である。なお、動物集団にみられる自律分散的性質が、緊急時の電力システム制御に有用であることが明らかになりつつある。 (3) 複数の電力貯蔵装置が分散配置された電力ネットワークにおいて、各電力貯蔵装置がローカル情報とある単純なルールにしたがって充電または放電を行えば、ネットワークに発生した線路過負荷をうまく解消できることを明らかにした。この電力貯蔵装置による線路過負荷解消の振る舞いは、自律した個の行動が集団全体の秩序を形成するという動物集団にみられる性質と類似しているので、今後、この類似性に着目して、電力システムの自己生成的協力制御の論理を検討する予定である。
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