平成11年度は、生物の社会集団的行動原理に基づく電力システムの協力制御理論の構築に向けて、前年度に開発した電力貯蔵装置群による線路過負荷解消制御についてさらに検討を深めた。主な研究結果は以下の通りである。 (1)電力ネットワークに分散配置された各電力貯蔵装置が、隣接した線路の過負荷を解消するように充電あるいは放電すると、線路過負荷は解消されるものの、電力システム全体の需給平衡を崩してしまうことが明らかになった。これは前年度開発した充放電ルールがローカル情報のみに基づいており、電力システム全体の振舞いを表すグローバル情報を利用していなかったためである。そこで各貯蔵装置の近傍で計測可能なグローバル情報として周波数に着目し、それを組み込んだ充放電ルールを検討した結果、需給不平衡量を低減できることが明らかになった。 (2)線路過負荷の解消時間と需給不平衡量の競合の度合いを、充放電ルールにおけるローカル情報とグローバル情報の重みの付けで調節でき、その重みを電源構成や潮流状態に合わせて各貯蔵装置が自発的に変更できれば、動物の社会集団的協力行動に類似した現象を電力システムにおいても発生させうることが分かった。 (3)開発した充放電ルールによる線路過負荷解消制御が、電力システムの安定性にどのような影響を与えるかを固有値解析手法を利用して分析した。その結果、貯蔵装置の充放電速度を適切な値に設定することにより、固有動揺モード等を不安定化させないことがわかった。ただし、充放電ルールに含まれている非線形性と電力システムの安定性との関連については今後の研究課題である。
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