研究の初段階として、具体的研究課題の抽出とその課題の研究成立性に関する基礎調査を実施した。視覚障害者30名を対象として、生活状況、屋内・屋外歩行行動、視覚障害者用各種設備、などに関して総合的なインタビュー調査を行った。その結果の分析により、建築音響関連の具体的研究課題として、空間音響の影響、床の発音性状、騒音の影響の3つの課題を抽出した。空間音響に関しては、視覚障害者(特に全盲者)の歩行・行動時に空間の音の響きや壁面での音の反射性状が実際によく意識されていること、あるいは小さい空間や細良い空間の方が大きい空間より方向感が良い、などの項目が指摘された。また床の発音に関しては、他者の認知のため実際に床の発音が頻繁に利用されていることが確認され、足音のしない絨毯敷き床への不満の指摘など具体的事例も抽出された。また、騒音の影響に関しても、多くの視覚障害者が具体的な被害経験を持っていることが示され、これら建築音響に係わる要因の重要性が明らかとなった。また、全盲者と弱視者では音の利用や騒音の影響に関して大きな差があることも明らかとなった。これらの調査結果を建築音響研究の観点から取りまとめ、研究報告として発表した。今後は、本調査により得られた結果を参考として、抽出された具体的研究課題に対して実験的検討を進める。まず最初に、視覚障害者のための建築音響の最適化に関する検討として、関連影響因子の抽出とその制御に関する基礎的な知見を収集する予定である。
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