ラム波のモーダル解析によって、円筒フランジで周辺固定されたクロスプライCFRP積層板(2-6mm厚さ)に直径7mmの鋼球が衝突(4-40m/s)するときの鋼球速度と衝撃力、衝撃力持続時間、内部損傷発生限界速度の関係を定量化した。衝撃力の正確な測定は、薄い積層板が自励振動するとともに、大規模な層間剥離が発生するため極めて難しい問題であるが、ラム波Soと初動Aoモードに対して実験一括応答関数を用いるシンプレックス援用波形シミュレーションによって正しく推定する方法を開発した。すなわち、シャープペンシルの芯の圧折によって励起されるラム波を圧折の原波形(0.9μsの立上がり時間と開放力6Nをもつステップ状関数)でガウスザイデル時間領域逆畳込み積分して一括応答関数を求める。次に、11次のフーリエ級数で近似した非対称逆山形衝撃力を仮定し、この原波形と一括応答関数の畳込み積分で得られる波形を実測ラム波形と一致させるための繰返し計算を行う。このとき、非対称山形波形の形状は、計算と実測波形が一致するように、フーリエ級数をシンプレックス法を用いて変化させることによって求めた。この方法によって、衝撃力とその時間履歴(モーメンタム)を求めることが可能になった。推定衝撃力履歴は、マス・スプリングモデルによるそれと、最大衝撃力はエネルギー・バランスモデル(衝撃点における板の最大たわみから計算)によるそれとを比較したが、マス・スプリングモデルではヘルツの接触力を測定するためラム波形シミュレーションによる値の40倍以上も大きな値を示す。一方、エネルギー・バランスモデルから推定される衝撃力は、低速鋼球範囲ではラム波から求めたそれらとほぼ一致するが、高速になると大きな層間剥離(衝撃裏面の繊維方向に沿うラグビーボール状の剥離)が発生するため一致しなくなることを明らかにした。すなわち、色々な方法の中でも、ラム波形シミュレーション法は、最も正確に衝撃力と持続時間を推定できることが示された。 また、線及び点状レーザの断熱膨張を破壊源としてラム波を発生し、ウエーブレット係数等高線図の類似度を調べることによって、繊維破断、トランスバースクラック、マトリックスクラック(スプリッティング)、デラミネーションなどの内部損傷を分類する方法を提唱した。本研究によって、測定の難しかった衝撃力履歴や、損傷の分類と進展挙動を明らかにすることが可能になった。
|