最近の研究で、Y_2O_3系ジルコニアにおいて時間依存型変形挙動である擬弾性が現れる事実が見い出された。本研究ではこの擬弾性挙動の基本要因の究明と機械的性質に対する功罪を明らかにすることを目的として、本年度は正方晶の相安定性を支配する結晶粒径に着目して擬弾性の発現を定量的に評価した。すなわち、3mol%Y_2O_3ジルコニア(3Y-TZP)を供試材として、超高温加熱焼成実験炉を用い1450〜1650℃の温度条件下で焼成熱処理を行い、正方晶粒径を0.3〜1.7μmの範囲に制御した。これらを用いて、相安定性、破断応力、擬弾性の相関関係を調べ、以下の結果を得た。 (1) 粒径の異なる3Y-TZPはいずれも擬弾性挙動を示したが、飽和擬弾性歪は粒径最大の試験片で最も大きかった。 (2) In-situ X線回折実験の結果、いずれの試験片においても破断直前まで応力誘起相変態は認められなかった。 (3) 本材料では結晶粒径を問わず、高歪速度より低歪速度の場合により高い破断応力が認められ、従来の材料とは異なる強度の逆歪速度依存性が確認された。 (4) 高歪速度の場合、焼成熱処理温度が高いほど、破断応力は低い傾向にあり、これは初期欠陥寸法及び結晶粒径の影響と考えられる。しかしながら、低歪速度条件下では、この傾向は見られず、結晶粒径が0.5μm程度のときに最大強度を示した。この事実は、本材料の強度が初期欠陥寸法や結晶粒径だけでなく、負荷条件に依存する擬弾性の発現形態に強く影響されていることを示すものである。
|