本年度は力学的観点からの追究に重点を置き、疲労き裂進展に対する擬弾性の功罪の評価を行うこととした。そこで、擬弾性を顕著に示す3Y-TZPとあまり示さない6Y-FSZを対比させながら、き裂進展速度に及ぼす周波数と荷重波形の影響を調べた。周波数は0.1〜10Hzの範囲で変化させたが、両材料で大きな差異は認められず、いずれも応力繰返し効果と環境効果が重畳したき裂進展速度の周波数依存性が確認された。しかしながら、3Y-TZPの疲労き裂進展速度は荷重波形依存性を示し、低速負荷/高速除荷波形の場合に最も高く、高速負荷/低速除荷の場合に最も低かった。き裂開口変位の時間変化の測定から、この現象は擬弾性によるき裂先端での応力集中の緩和と密度に関係していることがわかった。 さらに3Y-TZPを対象として「寿命測定からき裂進展速度を評価する方法」を用いて、擬弾性がより顕著に発現する高温下(100℃と250℃)での疲労き裂進展に対する擬弾性の功罪を検討した。100℃における疲労き裂進展抵抗は常温のそれより若干減少する傾向にあるが、250℃では逆にき裂進展抵抗の著しい増大がみられた。温度上昇に伴い擬弾性歪量は増加するが、早期に飽和する傾向にある。したがって100℃近傍ではき裂先端領域で擬弾性変形が速やかに終了してしまい、き裂は擬弾性枯渇域の伝播を余儀なくされるため、き裂進展抵抗は低く抑えられたと考えられる。しかしながら、250℃では非常に大きな擬弾性変形が起こるため、き裂先端は鈍化される。これが高いき裂進展抵抗の原因と推定される。 以上のように、擬弾性はその発現の速度と大きさに依存して、ジルコニアのき裂進展特性に対し有効に作用する場合とそうでない場合があることが判明した。
|