研究概要 |
金属・鉄鋼材料は、青銅器時代・鉄器時代の古くから人類により用いられているが、最近になって長期間の腐食により金属・鉄鋼材料の機能低下という実用上極めて重大な問題が認識され始めた。腐食に伴い生成するさび層は、腐食を加速あるいは抑制する効果があり、さび層をうまく制御することが機能低下防止のための有効な手段である。 本研究では、100年〜数千年の長期間使用あるいは埋蔵されていた金属・鉄鋼文化財について、金属材料工学的に材料の長期劣化過程とその防止対策を調査する。今年度は、数百年から数千年腐食した鉄釘,鉄挺,刀等について、それらに生成したさびの物理的詳細構造を調査した。その結果、長期間を通じて、さびを構成する物質の相変態が連続して生じていることが明らかとなった。さび中には、CuやCr等の金属元素が存在し、それらの効果によりさび構成物質の結晶のサイズや欠陥の有無が変化する。このように、熱力学的に理解可能なさびの相変態と含有元素に依存する結晶性状から、千年以上の長期間に及ぶ腐食プロセスの理解が可能になる。 以上の結果を踏まえ、工学と考古学の異分野を融合させ、かつ環境との関連を明確にすることにより、さび性状から文化財の年代や腐食環境を推定でき、さらに人類が今後長期間金属・鉄鋼材料を使用する場合に、如何にして機能劣化を防止することが可能であるか、さらには貴重な文化財の長期保護の観点から指針を与えることができる。
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