研究概要 |
本年度は、超音波伝搬に関わる物性測定の基礎となる、固液共存系における溶液構造に関する基礎物性として、固相共存下における液相の蒸気圧測定を行った。固相にα-Al_2O_3およびSiC粉体、液相にはCaCl_2水溶液を用いて、様々な温度で水蒸気圧を測定し、水分子の蒸発過程における固相およびその表面物性の影響について、熱力学的関数を算出し、検討を加えた。試料溶液は、CaCl_2を純水に溶解し、所定の溶液濃度(1,3,5mol/l)に調製したものを用いた。試料は、α-Al_2O_3およびα-SiC粉体を110℃で48時間乾燥させたものに、それぞれCaCl_2溶液を加えてメノウ乳鉢で十分に混合して所定の液相体積分率(α-Al_2O_3,8-45vol%,α-SiC 8-35vol%)に調製したものを用いた。 水蒸気圧は、気体流通法(transpiration method)により測定した。測定温度30-50℃でN_2ガスの流量を変化させて水分量を測定し、水蒸気が理想気体であるとして気体の状態方程式より水蒸気圧を算出した。一般にCaCl水溶液の蒸気圧は調湿に利用されていることからも知られているように、電解質濃度が高いほど、イオン-^2水間の相互作用が顕著になり、蒸気圧は低下する。この電解質溶液に固相を添加した場合に、それぞれの電解質濃度における蒸気圧の変化から、固相の影響について検討を行った。1mol/l及び3mol/lについては、液相体積分率の減少とともに水蒸気圧がさらに低下した。また、固相の比表面積が大きなものの方が蒸気圧は低くなっており、固相の影響による水分子の蒸発が抑えられていることが明らかとなった。一方、5mol/lにおいては、蒸気圧の変化はあまり認められなかった。これは、高液相体積領域においても溶存するイオンからの影響が非常に大きく、水分子は比較的蒸発しにくい状態にあり、固相による影響が相対的に小さくなるためと考えられる。また、固相にα-SiCを用いた場合、蒸気圧の変化を示す液相含有率領域は低く、固相からの影響の及ぶ範囲が小さいことが明らかとなった。今後、前年度に得られた電解質溶液の高次構造を超音波で捉える手法を固液共存系に適用し、固液共存系における超音波伝搬に関する測定を行う。
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