研究概要 |
高分子物質における誘電性や導電性には小さな非線形性が存在するが,その周波数スペクトルを精度よく測定すると,双極子相互作用,キャリヤーの移動距離,束縛ポテンシャルの形状などに関して,線形領域の測定からは得られない情報が得られる可能性がある.本年度は,非線形複素導電スペクトル測定システムの基本となる装置の設計及び試作を行った.電気系の概略は以下に示すように当初の計画と殆ど同じであるが,試作した結果,当初の設計のままではFFT部は期待通りの成果が得られず,設計を変更した.原発振器の位相を互いにロックした二台のシンセサイザーの片方(既設改良)より歪の少ない(60dB以下)正弦波と,振幅と位相の既知の高調波を含む参照波をつくる.正弦波を試料に加えた時の応答とこの参照波を発信器(YHP3324A借用)の出力で変調し,得られた差信号をFFTアナライザー(ADVANTEST TR9408B:本年度購入改良)で,位相と振幅の比を高精度で求め,複素線形及び非線形導電率の実部及び虚部をコンピュータで算出した.また,応答電流は微弱であるために精密アンプを設計し,さらに基準波をアンプ内で打ち消し,高調波のみを増幅する工夫をこらした.この試作したシステムを用い,(1)イオン導電性高分子(2)帯電防止樹脂の電荷挙動について測定を行った.その結果,イオン移動の素過程がMHz以上の高周波数域側にあること,導電性を直接支配している大きなイオン移動は1Hz以下の運動であること,更に各運動におけるイオンの基本移動距離を定量的に明らかにした.(3)高分子強誘電性液晶の誘電性についても本測定システムを応用し測定を行った.その結果,高分子液晶が低分子液晶と異なる特徴ある物性を示す原因は,tilt angleに起因する非線形性が低分子液晶の1/100以下であることを明らかにした.
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