本研究では、近年開発された走査フォトン顕微技術を単一高分子鎖の蛍光分光研究に適用することにより、固体中における高分子鎖の形態と光物理過程を調べ、高分子鎖固有のナノ構造やその空間分布をもとめることを目標とした。 平成10年度の基礎研究によって走査フォトン顕微鏡の改良とその性能評価は完了し、ファイバー励起による蛍光分光を行うための装置整備ができた。 これにより、11年度は次のような2種の高分子を選択し研究を行った。 1、剛直高分子鎖の一次元ならびに二次元単分子膜における会合状態の評価 2、柔軟鎖高分子の単一分子直接観察 剛直鎖としてはセルロース系高分子鎖を蛍光ラベル化し、単一分子鎖の形態や2次元単分子膜における分子間会合形態を観測した。また、柔軟鎖高分子としてポリイソブチルメタクリレートを採用し、これにペリレンを蛍光基としてラベルしを施し、顕微鏡観測を行った。 その結果、分子量100万程度の高分子では、単一分子鎖を十分なS/Nで捕らえることができた。特に柔軟鎖であるポリイソブチルメタクリレートの場合は観測された分子数から数平均分子量をカウントでき、さらにこれらの分子鎖が分子内で膜内で凝集し他の分子鎖から分離した形態をとることが示された。以上のことより、走査フォトン顕微鏡がナノレベルで単一高分子鎖を観測する能力をもつことが実証され、固体内の素形態や素光過程の観測に有力な手法となることが示された。
|