コンプレックス形成能をもつ高分子を化学架橋して得られたゲルを低分子イオン存在下におくとイオン濃度やpHに応じて収縮あるいは膨潤する。このコンプレックス形成(化学反応)とゲルの膨潤・収縮(網目の協同拡散)を制御すれば、反応・拡散による自励振動系を具現させることができると考えられる。こうした"開放系の科学"を高分子系に応用する試みも散見されるようになってきたが、高分子系は一般的に高粘稠であるため振動発現に必要なフィードバックが十分にかからない過減衰系が多い。しかし、適当な系・条件を選ぶことにより、反応・拡散による自励振動系を具現させることができると考えられる。 本研究ではこの"開放系の科学"を高分子系において具現するために、イオン架橋性ゲルを用いて、膨潤・収縮(協同拡散律速)とイオン架橋(化学反応、自己拡散律速)を制御を行うことを目的とした。具体的には、環境変化によるゲルの膨潤・収縮挙動(協同拡散)とゲル内での低分子(溶媒や低分子イオン)の自己拡散の速度差を利用して化学振動系を高分子系にて実現する。イオン架橋性ゲルとして円柱状のポリビニルアルコール(PVA)ゲルを用い、下部をホウ酸水溶液、昼間部をシリコンオイル層、上部を純水浴に浸漬することで、下部でのホウ酸架橋と上部での脱ホウ酸架橋を実現し、ホウ酸イオンの流れとともに膨潤・収縮を実現させた。この膨潤・収縮において、動的光散乱によりゲル網目の協同拡散係数の時間変化を定量化するため、光源を安定なHe-Neレーザー(22mW)に変更するともに、逆ラプラス変換計算のためのコンピュータを購入した。こうすることで、膨潤・収縮と動的光散乱の同時実験を実現した。現在までの実験では、1周期半のサイクル分の膨潤・収縮が観測された。今後、ゲルの膨潤・収縮サイクルのゲルサイズ依存性、ホウ酸濃度依存性などを定量的に解析する。
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