宇宙高電圧技術の最も基礎的な課題であるプラズマ中での絶縁膜の絶縁破壊のメカニズムを実験的に解明することを目的として研究を行った。本実験では、金属板に張りつけたポリイミド薄膜表面をイオンビーム(300〜1500電子ボルト)の照射で帯電させ、金属板に流れる電流で放電を検出することにより薄膜の絶縁耐力を調べた。照射ターゲットの前面には3枚のグリッドを設置して負電位バリヤを作り、イオンビームとともに伝搬してくる電子を追い返して、薄膜が高エネルギーイオンにより確実に帯電するよう工夫を施した。絶縁破壊が膜を貫通するパンチスルーなのか、膜の表面を電荷が走る表面放電なのかを解明することを目的として4種類の厚さの薄膜(7.5〜75ミクロン)を使用して実験を行った。各厚さの薄膜について、放電電荷量の差は見られたが放電頻度には大きな差はなかった。1回の放電で失われる電荷は最大帯電電荷の数十%になることが判明した。一方絶縁体近くに探針をセットして実験を行った場合には放電時に探針への顕著な電流は流れなかった。このことは放電は絶縁体表面での放電ではなく、パンチスルーであることを示している。厚さに対し顕著な依存性がない点は、絶縁膜材質の欠陥(微小穴、局所的な膜厚の減少など)が、厚さによらず共通的に存在していることを示唆していると思われるが、今後さらに研究が必要である。また、絶縁膜からのアウトガスが絶縁破壊に与える影響を調べるため、絶縁膜の温度を150度Cまで変化させた実験を行ったが放電頻度の試料温度に対する顕著な依存性は見られなかった。
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