金属板上にポリイミド膜を密着したターゲットにイオンビームを照射し、ポリイミド膜を最大1.5kVまで帯電させポリイミド膜の絶縁破壊を検出した。ポリイミド膜上の帯電はイオンビームの電流密度に依存し、放電場所はビーム密度の大きいビーム中央部に集中するとの予測のもとに、金属版をセグメントに分けセグメント毎に放電電流を計測した。予測に反し放電電流は各セグメントでほぼランダムに計測され、一定の放電場所を同定することはできなかったが、放電はチェンバー壁と放電したポリイミド膜との間で発生するのではなく膜のパンチスルーによるものであることが結論できた。このことを更に確認するためターゲットとチェンバー壁との距離が1m以上とれる大型のスペースチェンバーでの実験を実施した。この実験では拡散型のプラズマ源を用い、ポリイミドで被覆したターゲットを複数用い、金属板にkVレベルの電圧を印加して放電の状況を調べた。この実験では一つのターゲットの放電で発生するプラズマの影響が他のターゲットにイオン音波の速度で伝搬することが観測された。一方宇宙空間特有の絶縁破壊機構として重要と思われる高速ダストによる絶縁膜の衝撃破壊についても研究を着手した。この研究では高速ダストを模擬するためジャイアントパルスレーザを用いた。レーザーのエネルギーは10mJ、パルス幅は10nsであり、エネルギー的には数十ミクロンサイズ、10km/sのダストに相当する。ポリイミドで被覆された金属板ターゲット(+20V印加)にレーザを照射すると衝撃プラズマの発生により1〜3mAの電子電流がターゲットで計測された。同一場所へのレーザ照射の回数が増えるに従い検出電流が増加した。これは照射によって作られる絶縁膜の穴が増大するためと考えられる。この実験により高速ダスト衝撃の絶縁破壊による過渡電流について基礎的なデータが得られた。
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