絶縁薄膜の絶縁破壊現象を調べるため、宇宙研のイオンビーム発生装置及び大型スペースチェンバーを用いて実験を行った。イオンビーム発生装置による実験では、最大1.5keVのイオンビームをポリイミド膜を表面に張った電極に照射し絶縁破壊頻度と放電形態、放電の経路を調べた。一方、スペースチェンバーでの実験では、プラズマは拡散プラズマ源を用い、ポリイミド膜を表面に張った電極に最大3kVまでの負の高電圧を印加し、放電波形、放電の形態、1ヶ所の放電が他の場所の帯電部に及ぼす影響を調べた。この実験は九州工業大学の趙孟佑助教授と共同で行った。複数のポリイミド膜付き電極を使用した実験では、1ヶ所で発生した放電(プラズマから電極部への一時的な大電流)は、他の場所での絶縁フィルム上の正帯電部からプラズマへの電流を誘起し、電流の閉回路が形成される。この電流は、絶縁フィルム上の正帯電部の電荷が完全に解放されるまで継続することがわかった。本課題に関連して、宇宙空間特有の現象として、高電圧部に高速のデブリ(毎秒10km以上程度の速度をもつ微小物体)が衝突した時に発生するプラズマによる電流について研究を行った。この場合は短時間に発生するプラズマが大電流を誘起し現象的にはアーク放電の発生と同様な電気的な影響をもたらす。この現象は特に高電圧を用いる太陽電池を使用する場合に問題となる。金属電極をポリイミド膜で被覆したターゲットを用い、高速デブリの代わりに1MWのパルスレーザー(10ns)を用いて実験を行った。パルスレーザーのエネルギーは、10ミクロン、10km/sec程度のダストの運動エネルギーに相当する。この実験では、アルミ板への印加電圧やポリイミドの厚さに対する検出電流波形の依存性、多数回照射の場合の検出電流の変化、ダスト衝突後に露出する金属面が収集する定常的なプラズマ電流に関するデータを取得して解析した。
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