研究概要 |
夏季に花を温室栽培すると,栽培中に突然茎が折れることがある.一般に「首折れ」と呼ばれるこの現象は,チューリップなどではホウ素が欠乏した場合に数多く認められることから,ホウ素欠乏に起因した生理障害であると考えられている.しかし,トルコギキョウなどではホウ素が欠乏していなくても「首折れ」が発生し易い.温室栽培のように昼間土壌が乾燥し易い条件下では,土壌の乾燥に伴う水分ストレスと,その後のかん水による水分ストレスの回復が交互に生じる.このように,水分ストレスが繰り返し加われば,細胞が収縮と膨潤を繰り返すことによって生じる局所的な細胞の疲労が生じる可能性がある.通常,草本植物の茎は弾性が高いため折れにくいが,水分ストレスによって生じる局所的な疲労が細胞壁に蓄積すると,組織は急激に弾性を失い,非常に小さな応力でも折れる可能性がある.トルコキキョウを材料として,pF2.8程度の水分ストレスを繰り返し加えたところ,対照区に比べ茎の伸長速度は大きく抑制された.また,茎の弾性は水分ストレスが加わるに従って減少し,茎の硬度は増加するものの,曲げ応力に対する抵抗性は減少する傾向が認められたことから,水分ストレスと細胞壁の硬化との関係が示唆された.細胞壁は,ペクチン,ヘミセルロース,セルロース,およびそれらを架橋する側鎖中性糖や無機イオンなどから構成される.水分ストレスによる茎の弾性の変化は,細胞壁成分の変化を示唆している.したがって,今後は水分ストレスが細胞壁の性質に及ぼす影響を,生化学的手法を加えて検討する予定である.
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