アミノ酸の自己合成能をもつ細菌が、その生合成経路にかかる代謝制御が解除されたとき、アミノ酸を細胞外に分泌するようになる。その分泌能は同じアミノ酸を細胞内に取り込む機能が欠失しても損われない事例があることから、細菌は取り込み系とは別個にアミノ酸の排出機能を備えていると考えられる。本年度はD-およびL-アラニンを分泌併産するコリネ型細菌野生株Corynebacterium lactofermentumにおいてD-アラニンの排出系が存在することを遺伝生化学的に証明することを試みた。 野生株をニトロソグアニジンで変異処理し、D-アラニン要求性変異株を含む最少寒天培地上でコロニーの周囲にできるハローが親株に比べて大きくなった変異株を取得した。生産試験により、これらの変異株の中には分泌アラニンに占めるD体の比が上昇したものの他にD-アラニンのみを分泌するものがあることがわかった。 後者の変異株と野生株について、アラニンラセマーゼの阻害剤であるD-サイクロセリン存在下でのD-アラニン取り込み反応を行い、細胞内のD-アラニン蓄積量を測定したところ、そのレベルは変異株では約4割減少していることが認められた。この取り込み反応系に脱共役剤であるCarbonyl cyamide m-chlorophenyl hydrazoneを添加すると両株ともD-アラニン蓄積量は同レベルまで上昇した。さらに脱共役剤を除外して蓄積細胞からのD-アラニンの排出速度を比較した結果、変異株は野生株に比べて約1/3の排出速度を示した。これらの結果から、C.lactofermantumはエネルギー依存的にD-アラニンを排出する機能を有することが明らかになった。
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