ハロ酸デハロゲナーゼによるハロ酸の分解機構を解析した。本酵素反応の第一段階では、酵素のAsp10の側鎖カルボキシル基が基質2-ハロ酸のα-炭素を求核攻撃してハライドイオンが脱離するとともに酵素と基質からなるエステル中間体が生成する。続く第二段階でエステル中間体が加水分解されて2-ヒドロキシ酸が脱離するとともに、Asp10が再生する。野生型酵素と比べて著しく反応速度が遅いS175A変異体の結晶を調製し、これをグルタルアルデヒドで架橋した後、種々の基質および基質アナログ(モノクロロ酢酸、L-2-クロロプロピオン酸、2-クロロプロピオンアミド、2-クロロ酪酸、L-2-クロロ-3-メチル酪酸、L-2-クロロ-4-メチル吉草酸)を含む溶液にソーキングした。その結果、反応中間体の構造を結晶構造学的に解析することができた。本酵素反応では、基質ハロ酸のカルボキシル基が酵素のArg41によって認識され、さらに、Ser118によってそのカルボキシル基が安定化される。次いで、Aspl80によって反応性が高められたAsp10の側鎖カルボキシル基が基質のα-炭素を求核攻撃してエステル中間体が形成される。さらに、Asn177とAsp180によって活性化される水分子がAsp10のγ-炭素を求核攻撃してエステル中間体の加水分解が起こる。加水分解の際、Asp10の側鎖に生じる負電荷はLys151あるいはThr14との水素結合によって安定化される。以上の様な機構で反応が進行するものと考えられた。ハロ酸アミドに作用するデハロゲナーゼについても反応機構の解析を行い、本酵素の場合、溶媒の水分子が直接基質を求核攻撃して脱ハロゲン反応が起こることを明らかにした。
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