本年度は、ガス状水分ストレスである湿度(しつど)に対する微生物、特に糸状菌の認識応答にかかわる基礎現象の確認検証を目指した。すなわち、好乾燥性麹かび(Euro-tium herbariorum)および乾燥感受性かび(Cladosporium herbarum)の分生子を生物材料とし、その無性世代生活史において湿度をシグナルとする生活相(フェーズ)の検索・検証を行なった。用いた実験系と、得られた結果は下記の通り。 各種Ageの分生子(conidia)を出発生体試料として、調湿環境下(各種湿度、28゚C)における膨潤、出芽および菌糸伸長などの応答を顕微鏡下経時観察した。 1. 10-day ageの好乾燥性かびの分生子は、乾燥(例:相対湿度41%)を、(1)膨潤・出芽の促進シグナルとし、(2)菌糸伸長の抑制シグナルとする。一方、乾燥感受性かびの分生子は、(1)高湿度(例:相対湿度98%)を、膨潤・出芽および菌糸伸長の促進シグナルとし、(2)乾燥を抑制シグナルとする。 2. 湿度に対する認識応答の感度は、(1)分生子のAgeにより、(2)分生子着生条件により、異なるので注意を要する。また、調湿培養で用いる栄養培地への添加剤(アガー、栄養剤、保水剤、浸透圧調節剤など)によって、結果が著しく変動する。結果の再現性を確立するため、実験条件を厳密に確認する必要がある。
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