鍵と鍵穴の関係にも例えられる抗原抗体反応やホルモン受容は、解離定数が10^<-9>M以下という大変強い相互作用である。一方で、神経伝達などに関与してる分子認識は解離定数が10^<-4>〜10^<-6>M程度の弱いものである。このような生理機能にかかわる弱い相互作用は低分子同士もしくは低分子とタンパク質間の相互作用に因っていることが大部分であるが、複合体に関する正確な構造情報はほとんど得られていない。 スぺルミンなどのポリアミンは細胞内に約1mM存在する常在成分であり、生体高分子などと弱い相互作用を有していると考えられているが、その正確な生理機能については未解明の部分が多い本研究では、本年度は、ポリアミンと核酸のつくる複合体のモデルとして、スペルミジン、ATP、マグネシウムイオンを取り上げ、水溶液中における複合体の構造解析を行った。ポリアミンの立体配座をNMRを用いて求める場合に、最も障害となっていたプロトンシグナル等価性の問題を、スペルミンのブチレン部分の二級アミンの隣接位にメチルを導入したモデル化合物について両鏡像体を選択的に化学合成することによって解決した。これによって、不斉炭素前後3結合以内にあるメチレンプロトンのシグナルを非等価にすることに成功し、さらに水素-炭素間などのスピン結合定数を観測することによってと立体配座を決定することができた。その結果、メチルスペルミジン分子は、中央の窒素を含め伸長したジグザグ構造を取っていることが明かとなった。 ATP分子に関しても、ポリアミンとの複合体における立体配座を求めるために、複合体形成の条件検討を現在行っている。また、ATPのγ-メチレン体とβ-メチレン体を用いて、P-O-P-O結合とO-P-O-C結合の2面角を求めることによって複合体形成時の三リン酸の立体配座を決定するためにATP分子の修飾を試みている。
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