サポニンの添加によってインヒビターのトリプシン阻害活性が上昇することより、トリプシンとインヒビターの結合定数が変化するものと考えた。そこで最近生体分子間の相互作用解析に用いられ注目を集めているBIAcoreを用いて解離定数を測定した。その結果、サポニンを添加した系でも安定したセンサーダラムが得られ、各種パラメータを計算することかでき、Kd値はサポニンの添加によって約15%ほど低下し、平衡が複合体生成へと移動していることが示されたがその程度は小さかった。 サポニンのトリプシンインヒビター高次構造に及ぼす影響について検討するためにCDスペクトルを測定した。その結果、サポニンの添加量に依存してスペクトルの変化が見られ、Yangらの式によって2次構造成分を計算したところ、比較的少量のサポニン添加ではβ-ターンの増加が見られ、さらにサポニンの添加量を増加させるとα-ヘリックスの出現が見られた。 次に、重水を用いてインヒビターとサポニンの混合物についてNMRスペクトルの測定を試みた。その結果、サポニンを添加した試料でもスペクトルが得られ、αプロトン-βプロトン間のクロスピークの位置に差が見られた。しかしながら、重水中の測定ではアミドプロトンのシグナルが消失してしまうため、現在さらに軽水中でのスペクトル測定を試みている。現在、巨大な水のピークを消去しタンパク質のシグナルを抽出するための操作を習熟中でまだ満足のいく成果は得られていない。
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