研究概要 |
様々な環境(海水,淡水,汽水)に生息している貝類の筋肉(閉殻筋,斧足筋)のトランスグルタミナーゼ(TGase)について調べたところ,海産の貝由来の本酵素はNaClで強く活性化され,海水中の濃度で高い活性を示した.一方,淡水産の貝のTGaseは低塩濃度下で高い活性を示すことなどから,本酵素の活性化と外界の環境との関連性,例えば筋肉細胞の創傷治癒との関係を推定した.貝類の体液(血リンパ液)は外界の水と等張であるから,体液中のTGaseの存在と機能についても明らかにする必要がある. ホタテガイ体液を貝柱から採取して,TGase活性をカゼインを基質にMDCの取り込み活性で測定したところ,血漿タンパク質画分中には酵素活性は検出されなかったが,血球中には活性が存在した.酵素の蛍光性基質の一つであるMDCは血球に取り込まれることが顕微鏡観察で認められた.そこで,血球中のタンパク質をSDS-PAGEで分析した.この結果から,MDCは血球の高分子タンパク質に結合することが明らかになった.血球からTGaseを0.1M NaCl 5 mM EGTA 20mM Tris HCl(pH7.5)抽出して粗酵素レベルでその性状を調べた.血球TGaseはCa^2で活性化される組織型酵素であるが,さらにNaClで活性化され,体液中(すなわち海水中)の濃度で最大活性を示した. 二枚貝の体液は創傷時にも凝固しないので,止血は創傷箇所への血球シートで行われるが,この時血球の本酵素はシート間を架橋してこれを補強する役割を担うこと推定した.また,この結果から筋肉の本酵素は創傷時に海水よりも体液との接触によって活性化される可能性が推測された.
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