ミオシンは球状の頭部と棒状の尾部がネックで結合している特徴的な構造をしている。ミオシンの構造がいかに構築されるかを調べるため、ほぼ100%のヘリックス構造からなる尾部rodの加熱による構造変化の解析から検討した。rodのキモトリプシン消化物からN-末端をカバーする40kS-2とC-末端をもつ40kLMMを単離し、それらの構造安定性を、加熱による二次構造の消失を円偏光二色性の手法を用いて追跡すると、どちらも100%のヘリックス構造でありながら、S-2は43℃以上でヘリックスのほぐれが認められ、非常に安定性であるのに対し、LMMは33℃でほぐれ、不安定なドメインであることがわかった。しかし、例えば50℃のようなどちらの構造も破壊される温度で加熱しても、氷冷すると、両者ともヘリックス構造の完全な回復が認められ、巻き戻しに安定性の差がないことがわかった。このとき、いずれの試料でも凝集などの不可逆的な変性は認められないことをHPLC分析で明かにした。これは両者を結合しているrodでも同じであった。より高温の80あるいは100℃でrodを加熱しても凝集程度はかなり低かった。一部加熱凝集したrodではどの部分で凝集が起きているかキモトリプシン消化で調べたところ、LMM部分の消化性はあまり変化せず、S-2部分で変化していた。その消化物をゲル濾過で解析しても、凝集している断片は認められず、消化のさいに凝集に関与していたS-2部分は小断片化され、同時に凝集体も消失してしまったと推定した。このことは2次構造安定性の優れている部分が必ずしも安定な立体構造を示す分けではないことを意味し、2次構造と立体構造の中間構造であるモルテングロビュール状態において両者で違り、フレキシブルな構造の方がかえって有利である場合もあることが示された。
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