研究概要 |
本年度の研究計画として、「カモシカの農作物利用実態」と「耕作地非依存カモシカの生活」をあげた。3頭をラジオトラッキングしたところ、各季節毎の行動圏はそれぞれ121.8(雄),63.2(雌),35.1ha(雌)であった。耕作地及び植物園で発見された割合は各個体毎に14.8,8.7,16.3%であった。つぎに、カモシカの食害が見られた耕作地A(アズキ)、それに隣接した場所での実験耕作地B(アズキ、ダイズ、ニンジン)、その他の耕作地C(ブロッコリー)を6月20日から11月19日まで、それぞれ延べ2232時間、3144時間、1284時間昼夜ビデオ撮影した。その映像から耕作地内での行動、作物の採食方法、滞在時間、採食量を明らかにした。カモシカの侵入は連日ではなく数日間隔の不定期なものであった。Aでは8月2日から平均4.3日毎に23回、Bでは7月9日から平均5.5日毎に21回、Cでは9月9日から平均3.4日毎に7回侵入した。調査期間中の全摂食量はA,B,Cとそれぞれ10.2、1.9、0.6DMg/m2であった。各々の調査地において1分以上の摂食が見られた回数はそれぞれ12、5、1回で、摂食時間はそれぞれ8.6、2.5、9.4分/回、1回の摂食量は53.7、45.5、86.4DMg/回であった。このように、耕作地での摂食状況や摂食利用時期は、播種作物種毎に異なった。耕作地内では一カ所で連続的に摂食していることはなく、移動しながら、あるいは時々立ち止まっての摂食であった。最後に、耕作地に侵入しないカモシカの植物選択性を、行動圏内の現存量と食痕から検討した。落葉広葉樹への弱い選択性に加え、広葉草本への強い選択性がみられた。すなわち、カモシカはbrowserと分類されているが、forbs食へも偏重し、野菜への嗜好を本来的に持つ可能性が伺えた。
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