乳房炎の産業的損失を伴わない治療法の開発が切に望まれている。そのためには乳牛の乳腺免疫機構を解明し、乳房内細菌感染の防除に関する免疫応答を理解することが不可欠である。昨年度の研究で、ホルスタイン種の乳腺組織で、CD2^+T細胞(T cells)、CD4^+T細胞(T helper cells)、CD8^+T細胞(T cytotoxic/suppressor cells)サブセットの存在を証明し、これらの分布が組織部位で異なること、泌乳期と乾乳期では特徴的な分布パターンを示すことを明らかにした。さらに、乳腺上皮細胞間に存在するCD8^+T細胞は局在性が小腸上皮のiIELと一致することからmIEL(Mammary Intraepithelial Lymphocytes)と命名した。本年度の研究において、mIELの多くはD8^+T細胞で、TCRγδ、ACT2抗原を提示すること、そして乳腺上皮細胞の分泌機能と密接も関連し、この細胞を監視し、異常をきたした細胞の排除に作用することが示された。さらに、乳牛の乳腺において、γδ^+T細胞とACT2^+細胞は泌乳期で乾乳期より多く、腺胞間結合組織よりも腺胞上皮内に多く出現した。また、腺胞間にD8^+T細胞に並びにγδ^+T細胞クラスターが存在したことから乳腺において組織固有の胸腺外T細胞が分化する可能性が高いことが示された。乾乳期と泌乳期の乳腺から分離したリンパ球でも、組織学的に得られた結果と同様のに、泌乳期にD8^+T細胞が多く出現し、TCRγδあるいはACT2抗原陽性のD8^+T細胞も比較的多く認められた。以上のように、牛乳腺のT細胞サブセットは泌乳サイクル、すなわち乳腺上皮細胞の機能に応じて、それらの分布と出現割合が著しく変化することが示された。したがって、泌乳サイクルに伴う免疫応答は高度に分化した乳腺活動の結果としてとらえることができる。その詳細は学会で発表され、国際誌に公表された。
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