平成11年度は、老齢モデルとされる生後約44週のラットや2年のラットの末梢運動神経損傷モデル(ラット舌下神経損傷モデル)を用い、損傷運動ニューロンにおける各種遺伝子発現応答の違いをin situハイブリダイゼイション法によってさらに広範に検討した。しかし、運動ニューロンにおいては、これらの分子の発現はいずれも老齢ラットと成熟ラットの間には著明な変化はなかった。そこで、損傷運動ニューロンの近傍に存在するミクログリアやアストロサイトについても、神経軸索損傷後の形態や分子発現動態を検討した。ミクログリアについてはOX42をアストロサイトについてはGFAPをマーカーとして検索した。その結果、加齢にともないミクログリアは増加しており、神経損傷を与えなくとも運動神経細胞近傍のミクログリアは極めて多いことが明らかになった。神経障害後は老齢ラットにおいてもミクログリアの活性化は見られるが、生後44週のラットに比べ、2年のラットでは活性化が若干低下していることが明らかになった。一方、GFAPを指標にしたアストロサイトの動態については、加齢が進むにつれてGFAPの染色性が増加しており、加齢ラットでは障害後にはGFAPの発現がわずかに増加傾向を示すものの、成熟期のラットに比べると、軸索障害後の発現のコントラストはほとんど見られないことが明らかになった。このような、グリアの加齢に伴う発現変化が根底にあることが、障害後の運動ニューロンの再生動態に何らかの変化を与えているのかもしれない。
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