目的:慢性痛患者の痛みが前線通過時や低温環境によって増悪する機構の解明を目的として、低圧低温環境シミュレーターを用いて慢性痛動物モデルの痛覚過敏に対する低圧・低温環境曝露の影響を観察した。 方法:疼痛反応は(1)足底皮膚をvon Frey毛で押した時の逃避閾値(VF値)、(2)足底皮膚に安全ピンを押しあて、足を挙げている時間(挙上時間)を測定した。Bennettの方法に準じ作製した坐骨神経絞扼モデ ルラット(CCI群)と対照群、腰部交感神経切除群(SYX+CCl群、SYX群)を(1)気圧を8分かけて20mmHg減圧、または(2)室温を15℃に30分かけて低下させた環境に曝露し、そこで得られたVF値と挙上時間を曝露前値、曝露後値と比べた。また、足底皮膚温を測定し、曝露の皮膚温への影響を観察した。 結果:(1)低圧曝露:低圧曝露はCCI群でおいてのみVF値の低下と挙上時間を延長した。低圧曝露は全ての群の足底皮膚温を変化させなかった。(2)低温曝露:低温曝露はCCI群とSYX+CCI群のVF値を低下し挙上時間を延長した。低温曝露は全ての群の皮膚温を低下させたが、その効果はCCI群、SYX+CCI群の患肢において著明であった。 考察:(1)慢性痛ラットの痛覚過敏現象は低温・低圧曝露によって増強された。(2)低圧曝露の増強効果のメカニズムには交感神経の興奮機構が介在している。(3)低温曝露の増強効果はSYX+CCIラットにおいてもみられたが、患肢の皮膚温の低下がCCI群とSYX+CCI群のどちらにおいても同様に著明であったことから、メカニズムに交感神経興奮が介在していないと考えるよりは、液性または皮膚局所温低下による侵害受容器への直接的効果によって交感神経除去の効果がマスクされている可能性がある。
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