研究概要 |
炭疽菌の主要な病原因子の一つ,毒素は防御抗原(PA)、浮腫因子(EF)、致死因子(LF)から成り、PAがまず宿主細胞に結合し、その後、EFもしくはLFが細胞結合性のPAを介して、細胞内に取り込まれ、初めて毒素を発揮する。LFのN-末から255アミノ酸残基(LF255)領域がPAへの結合部位である。そこで、LF255と外来遺伝子産物の融合タンパクを作成すれば、PA存在下で融合タンパクは真核細胞内に取り込まれる。最近、LF255とリステリアのT細胞エピトープとの融合タンパクによる防御効果が報告された。この結果、種々の感染症に応用可能で、非常に安全かつ簡便にワクチンが精製可能となった。また、PAは多くの細胞に結合するので、生理活性物質を細胞内に移入することも可能となる。そこで、融合タンパクを作り出すための発現ベクターの開発を目的として、以下の実験を企画した。LF255との融合タンパクを産生するための発現ベクターの構築、融合タンパクを細胞内に取り込ませるためのPAタンパクの精製、細菌感染症ワクチンの試作。 昨年度構築した発現ベクターLF255融合蛋白の発現を調べたところ、6xHisモノクローナル抗体およびコマシーブルー染色により目的の蛋白が確認できた。そこに、細菌や原虫でT細胞エピトープを持つと報告されているタンパク質の遺伝子を挿入した。しかし、塩基配列から融合蛋白の発現可能なように構築されていたにもかかわらず、融合蛋白は確認できず、6xHisモノクローナル抗体と反応したのは、もとのLF255融合蛋白がメジャーで、目的とする融合蛋白はごく微量であった。さらに蛋白精製後の菌体から分離したプラスミドには変化がなかった。以上の結果から、蛋白発現の過程で目的とする融合蛋白は、LF255と融合蛋白との融合部位で何らかの作用で切断されたとしか考えられなかった。LF255との融合蛋白を作成する際に、問題があったと考えている。現在は、この発現プラスミドに変わる新たなプラスミドの構築を行っており、より安定な形への改良を行っている。
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