研究概要 |
1995年韓国のある電気機器製造会社の労働者33名中、22名が生殖器障害、9名に貧血(汎血球減少症)がみられた。疫学調査から原因は使用していた2-ブロモプロパン(2-BP)とみなされた。当時、2-BPの毒性情報は、LD50のみであり、勿論どの国においても許容濃度の設定は検討されていなかった。最近、動物実験によってこの原因は2-BPであることが明らかにされた。しかしこのエピソードには、未だいくつかの問題が残されている。一つは許容濃度の設定である。いま一つは許容濃度の判断基準として、最終の毒性指標である骨髄細胞の減少あるいは生殖器(精巣、子宮等)の病理でよいかという点である。この研究では、以下の2点を明らかにすることを目的とした。1. 2-BP暴露-骨髄のアポトーシス-骨髄細胞の脱落-骨髄の脂肪化-汎血球減少症の一連の機構(精巣についても同様)。2. 2-BP暴露による骨髄のアポトーシスの量-反応関係。実験動物として1群6匹のウイスター系雌ラットを使用した。2-BPの暴露濃度および期間は0,50,100,500ppmx8hr/日,9週間とした。骨髄の障害性は末梢血液像(赤血球、白血球、血小板、ヘモグロビン、ヘマトクリット)、骨髄の病理(ヘマトキシリン-エオジン染色、アポトーシスの染色(TUNEL法)、アポトーシスの生化学的検出(電気泳動によるDNAラダーの検出)から検討した。卵巣の障害性は病理(ヘマトキシリン-エオジン染色、アポトーシスの染色、アポトーシスの生化学的検出から検討した。骨髄の病理標本および末梢血液像から、2-ブロモプロパンは300ppm以上の暴露濃度(1日8時間、9週間)において骨髄の障害性を示したが、アポトーシスを指標とすると、100ppmの暴露濃度(1日8時間、9週間)で骨髄の障害性を示すことが明らかとなった。2-ブロモプロパン暴露による骨髄障害の機構の仮説の検証と、アポトーシスの早期影響指標の妥当性が明らかとなった。
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