ヘモグロビン異常は現在まで600種類以上報告されている。それらの中には重篤な臨床症状を呈するものから、全く無症候のものまで多種多様である。本研究では、糖尿病の付随検査で見出されることの多い無症候性のヘモグロビンNiigata(Hb-Niigata)について、免疫化学的性状に変化を来しているかどうかを検討した。併行して、健常者集団の中に電気泳動的に異常パターンを示すヘモグロビンがあるかどうかを約2000例について検索した。 免疫化学的な検討は、Hb-Niigataの抗Hb抗体との結合性の有無、および血清ハプトグロピン(Hp)との結合性を検査した。具体的には、Hb-Niigataのアミノ酸置換に従った20残基のペプタイドを合成し、正常の一次構造を有するペプタイドとの間に抗体やハプトグロビンとの結合活性に相違があるかを検した。検査法はELISAならびに放射活性法によった。その結果、Hb-Niigata分子は正常のヘモグロビン分子と全く同等の結合活性を有しており、ペプタイドによる検査でも両者の間に差は認められなかった。即ち、β鎖のC末端1番目のアミノ酸がバリンからロイシンに置換し、さらにメチオニンが付加されているHb-Niigataには抗原性の変化やHpとの結合性に正常との差は無いものと結論できる。一方、健康者を対象とした電気永動的Hb異常は約2000例のスクリーニングでは見いだせなかったが、HbFを通常よりも高濃度に保有している例が1例検出された。今回の研究は当初の予定に反して、正常者と異常者との間に相違は見られなかった。臨床症状のでるヘモグロビン異常は成人以前に発症することが多く、今回はスクリー二ングを含め、対象が成人であったことがアップローチの見直しを必要とする点であろうと考えられる。
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