生きている状態の癌細胞の表面を原子間力顕微鏡で約1万倍の倍率で観察することに成功した。しかし、原子間力顕微鏡は細胞表面を鋭い探針でさわるため、細胞に対し僅かではあるが力学的な力が働く。それにより細胞が試料台より剥離してしまうことがしばしば生じた。そのため、細胞と試料台の固着性を高める必要が生じた。種々の検討の結果、スライドガラス上にコラーゲンゲルやセルタッチを塗布した上で細胞を培養させると試料台との固着性がかなりよくなる一方、細胞の増殖には影響をほとんど与えないことがわかった。現在は、この方法にて肺癌細胞の表面微細構造を観察している。 また、癌細胞表面には予想以上に微絨毛が存在していて、これが原子間力顕微鏡での微細な観察の妨げになっていた。そのため、トリプシン処理を5分以上行い細胞を剥離した上で、スライドガラス上に播種して24時間培養した後で観察を行えば、スライドガラスへの細胞の固着が良好であり、細胞表面に微絨毛も少ない状態を得られることがわかった。現在のところ、細胞膜直下にあるアクチンストレスファイバーを原子間力顕微鏡で確認できている。また、細胞骨格の免疫染色との対比により、アクチン以外のチュブリンと思われる細胞骨格繊維も認めている。これらの細胞骨格は、時間とともにゆっくりと上下に動いていると思われる現象を観察したが、その真偽について検討しているところである。また、さらに高倍率での観察を目指している。
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