研究概要 |
造血幹細胞複製因子は造血幹細胞研究の中心的テーマであるとともに、臨床上は造血幹細胞移植に極めて有用である。これまでにG-CSF,GM-CSF,IL-3,SCFなど多くの造血因子が同定・単離されたが、いずれも多能性造血幹細胞を増やすものではなく、ある程度分化した幹細胞を増殖させるとともに分化を促進する因子であった。これらの造血因子はいずれも可溶型因子であり、多能性造血幹細胞が骨髄で増殖すること、骨髄支持細胞存在下で骨髄造血幹細胞がcobble stone様の増殖形態を示すことなどから、多能性造血幹細胞の増殖には骨髄支持細胞の存在が必須であると考えられる。このことは造血幹細胞複製因子は骨髄支持細胞上でmembrane-anchored ligand(膜結合型造血因子)として発現することを示している。Notchは細胞内領域のみに切断されることにより、ligand非依存性の活性化型Notch (aNotch)となるが、このaNotchが造血幹細胞を増幅できる可能性を考えて研究を行った。myeloid系の分化モデルとして、マウス骨髄系前駆細胞株である32DのG-CSFによる好中球への分化を、erythroid系の分化モデルとしてマウスフレンド赤白血病細胞株F5-5のDMSO及びactivinによる赤芽球系細胞への分化を用い、aNotchlを32D,F5-5に発現させ、それらの分化に対する影響を調べた。その結果、aNotchlにより、それらの分化は抑制されることが示された。Notchlが種々のlineageにおいて分化の抑制を行うことにより造血を制御している可能性、および活性化型Notchを用いて造血幹細胞を増幅できる可能性が示された。以上から、可溶化型Notch ligandにより、造血幹細胞を増幅できる可能性が考慮される。
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