研究概要 |
マウスでは出生後の骨髄造血を構築する多能性造血幹細胞は胎生期9-11日のP-Sp(para-aortic splanchnopleural mesoderm)あるいはAGM(aorta-gonad-mesonephros)と呼ばれる領域から発生してくることが証明されている。しかしこの領域は造血幹細胞の中胚葉細胞がらの誘導の場であってその増殖の場ではないことを造血幹細胞表面に発現するレセプター型チロシンキナーゼc-Kit,TIE2の発現解析にょり明らかにした。P-SpあるいはAGM頃域で発生した造血幹細胞は胎児肝で造血が営まれる胎生11日までの間分化することなく増殖することが予測される。胎生9日においてc-Kit,TIE2をともに発現する細胞が胎児と卵黄嚢を結ぶ唯一の動脈である臍腸間膜動脈・卵黄動脈内に血管内皮に接着し集団として存在し、このc-Kit,TIE2陽性細胞はin vitroのコロニー形成能は持ちあわせていないが、ストロマ細胞株OP9上で共培養した後ではコロニー形成能を有する血液前駆細胞が極めて高頻度に検出され、すべての細胞系列の血液の出現が一つの細胞から誘導されることを明らかにした。これらのことは臍腸間膜動脈・卵黄動脈内に存在するc-Kit,TIE2陽性細胞は多分化能を持つとともに分化することなく増殖していることを示唆した。そこでこの臍腸間膜動脈・卵黄動脈の環境において造血幹細胞の自己複製因子が豊富に存在すると考え、臍腸間膜動脈、卵黄動脈のcDNAライブラリーを作成しsignal sequence trap法を用いて同定する方法を試みている。現在までに5つの新規の遺伝子が本法により同定され、これらが造血幹細胞の自己複製に関わるものか否かを検討している。
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