研究課題/領域番号 |
10877175
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
門脇 孝 東京大学, 医学部・附属病院, 講師 (30185889)
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研究分担者 |
安田 和基 東京大学, 医学部・附属病院, 医員
高橋 倫子 東京大学, 医学部・附属病院, 医員
寺内 康夫 東京大学, 医学部・附属病院, 医員
江藤 一弘 東京大学, 医学部・附属病院, 医員
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キーワード | mGPDH欠損マウス / GPシャトル欠損マウス / NADHシャトル / 膵島 / TCA回路 / ピルビン酸 / グリコース応答性インスリン分泌 / 2型糖尿病 |
研究概要 |
mGPDH欠損、すなわちGP(グリセロールリン酸)シャトル欠損マウスを、ジーンターゲティングの手法を用いて作製した。GPシャトル欠損マウスにMA(リンゴ酸-アスパラギン酸)シャトルの阻害薬であるアミノオキシ酢酸(AOA)を併用することにより、膵島で両方のNADHシャトル機能を停止させると、グルコース応答性インスリン分泌はほぼ完全に廃絶した。このようにNADHシャトル機構は、グルコース応答性インスリン分泌に必須であることがはじめて明らかにされた。両NADHシャトル停止下で、TCA回路におけるグルコース酸化を反映するとされる6-^<14>C-glucoseの酸化は約50%に低下していた。また、グルコース刺激後のNAD(P)H産生も野生型膵島に比べて約2割に低下しており、TCA回路での酸化が低下していることを裏付けていた。更にミトコンドリア内の呼吸鎖でのプロトン勾配の形成が大きく障害され、グルコース刺激後のミトコンドリアカルシウム上昇もまったく観察されなかった。このように、これまでマイナーな側副経路として認識されてきたNADHシャトル機構がグルコース応答性インスリン分泌に必須の役割を果たしていることが明らかとなった(Science283:981-985,1999)。上記のデータから膵β細胞において、以下のような新規なグルコース代謝モデルを提唱した。好気的解糖により産生されたNADHはNADHシャトル機構により効率的にミトコンドリアに運ばれ、それ自体がATP産生に大きく寄与するばかりでなく、ミトコンドリアのカルシウム濃度の上昇などを通じてピルビン酸の酸化を亢進させ、分泌に十分なATP産生を保証する。一方、両NADHシャトルが停止すると、シャトル由来のATP産生がなくなるばかりでなく、ピルビン酸の酸化が半減する結果、ATP産生は大幅に減少し、分泌は廃絶する。したがって、NADHシャトル機構はピルビン酸と並立する主要な解糖系シグナルとして位置づけされる(Science283:981-985,1999)。グルコース特異的なインスリン分泌応答不全は2型糖尿病の中核をなす徴候であり、その成因の候補としてNADHシャトル機構の構成要素や、その発現を抑制する転写因子の遺伝的あるいは後天的な障害を今後念頭におく必要がある。
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