研究概要 |
インスリン受容体基質(IRS)-1欠損マウスにおいてβ細胞当たりのグルコース応答性インスリン分泌は高濃度グルコース域で野生型マウスに比べ低下していた。また、細胞当たりのインスリン含量にも低下がみられたが、粗面小胞体にはむしろ著しい増生が認められた(Eto K et al.,unpublished observation)。IRS-2欠損マウスでもインスリン含量の低下と粗面小胞体の増生が認められたが、インスリン分泌は高濃度グルコース域でむしろ亢進していた(Kubota N et al.,Diabetes 49:1881-1889,2000)。グルコース応答性インスリン分泌におけるIRS蛋白質の発現量の差異や機能の相違がこれらの原因である可能性が示唆された。 PI3キナーゼp85a調節サブユニット欠損マウスにおいてはβ細胞当たりのインスリン含量・粗面小胞体はいずれも著明に減少していたがインスリン分泌は高濃度グルコース域で増加がみられた(Eto K et al.,submitted for publication)。またPI3キナーゼの特異的阻害剤であるwortmanninを野生型膵島に作用させても同様の分泌亢進が確認された。このようなPI3キナーゼの活性抑制がグルコース応答性インスリン分泌の増加に至る機序は、グルコース代謝やATP産生の亢進、細胞質カルシウム濃度の上昇では説明されず、細胞質カルシウム濃度上昇以降の過程において発揮されていることが示された(Eto K et al.,submitted for publication)。また、野生型膵島においてwortmannin作用後のAktキナーゼとそれに続くPDE3Bの活性抑制は明らかではなく、PDE3Bの抑制に伴うcAMP濃度の上昇がwortmanninの効果に関与する可能性は低いことが示唆された。
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