研究概要 |
今年度は、乳癌のエストロゲン(E2)依存性増殖に対するMDM2の役割を検討した。 mdm2発現プラスミド導入により樹立した、MDM2蛋白過剰発現乳癌細胞株MCF-7/pCmdm2では、コロニーフォーメーションアッセイにおいて、E2依存性細胞増殖能が親株MCF-7に比較し、約6倍亢進していた。この点に関し以下の検討をおこなった。 1. Estrogen receptor(ER)α、ER βmRNAの発現量をRT-PCR法にて検討したが、MDM2発現量の変化はこれらに影響を及ぼさなかった。 2. p53はサイクリンインヒビターp21の誘導を介して細胞周期に影響を与え、また、ERの機能を用量依存的に抑制することが知られている。過剰発現したMDM2がp53の分解を促進し、p53の発現量を低下させることで細胞増殖を促進した可能性を考え、E2添加後のp53,P21,MDM2蛋白の発現量変化をwestern blotting法にて検討した。E2添加後のp53,p21は予測に反して、MDM2過剰発現MCF-7で有意に増加し、MDM2発現を低下させた細胞株で減少していた。樹立された細胞株のみでなく、アンチセンスオリゴを用いた一過性のMDM2発現抑制によっても、E2存在下ではp53の発現量が低下した。 3. 紫外線照射によるp53誘導では、MDM2過剰発現MCF-7で、親株に比較し有意に誘導されるp53発現量が減少していた。2.でみられるようなMDM2とp53発現量の正の相関はE2によるp53誘導時にのみ観察されると考えられた。 4. ER responsive elementを組み込んだレポーターアッセイの検討からMDM2過剰発現 MCF-7で、ERの転写活性化能が有意に亢進していることが明らかになった。 以上の結果からER陽性乳癌細胞株MCF-7では、MDM2がp53の抑制を介さずに、単独でERの転写活性化能を促進し、エストロゲン依存性増殖能を亢進させている可能性が示唆された。今後さらに、E2によるp53,MDM2発現量変化のメカニズムと、MDM2とERの直接作用を検討する予定である。
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